八面六臂(はちめんろっぴ):多方面でめざましい活躍をしたり、一人で何人分もの働きをすること。元々は、8つの顔と6本の腕を持つと言う意味。
八面六臂の活躍をする人と言うのは、おそらくは脇役や黒子に徹し、決して派手ではないが無くてならない存在としてのポジションを確実に固めてきたようなタイプです。腹心の部下とか懐刀と言われる人たちです。
ヒトの体の中には
約40種類のミネラルが含まれていると言われていますが、この内、栄養素として必須である事が解っているものは
16種類で、これらは
必須ミネラルと言われています。
厚労省の実施している【国民健康・栄養調査】においては、必須ミネラルのなかで、
亜鉛、カルシウム、鉄、銅、マグネシウムの不足が指摘さています。
これらは、いずれも不足してはならないとされている栄養素であり、中でも活躍の場が最も多岐にわたっているが、その割に知名度、人気ともに今一つ冴えない亜鉛について考えてみたいと思います。
それは、亜鉛こそが、現代人の多くが何となく感じる体の不調の改善に貢献できるかもしれないからです。
人間が生きていくために必要なものに栄養素があります。糖質、脂質、タンパク質が有名であり、これらをバランスよく摂取する事が推奨されていることは周知の事実です。
これら3大栄養素は
カロリーとして数値化され、その偏りや過剰な摂取が、生活習慣病として表面化し問題視されています。
一方で、ビタミンやミネラルに代表される
副栄養素は、その不足が指摘されています。
現代人の食事は、カロリーは過剰であり、ビタミン・ミネラルでは不足していると言うアンバランスが常態化していることが栄養調査からわかっています。
これらのアンバランスを、年齢や性別、生活環境や生活強度に見合った過不足ないバランスに再構築していく事が、食生活を見直すことの本当の目的になります。
亜鉛については日常的に不足を意識する事はあまりありません。鉄が不足すれば貧血になる、カルシウムが不足すれば骨が弱くなると言われます。
子供からお年寄りまで、その不足が解りやすい病気や不調として表面化し、不足を警戒するよう啓蒙の行き届いたこれらミネラルに対して、亜鉛の不足を指摘される様な機会は殆どありません。栄養調査で不足している事が判明しているにも関わらずです。
亜鉛の不足が鉄やカルシウムほど知れ渡らない理由に、
亜鉛の性質が原因にあるのではないかと私は考えます。
- 亜鉛は300種類以上の体内酵素やタンパク質を作ったり活性化することに関与しています。
亜鉛は活躍の場が広く、不足したとしても他の機能に代償されてしまえば、亜鉛の不足が問題視されにくくなります。ちょっとの不調で終わってしまうのでは。。。
- 不足の症状が多岐にわたる。
亜鉛不足で有名なものは味覚異常ですが、それ以外にも皮膚・粘膜の異常、タンパク質や核酸の代謝異常、細胞の代謝や成長の異常、さらには、ホルモン作用、糖や脂肪の代謝、コラーゲン合成ほか、神経伝達、免疫機能、生殖機能などの異常として現れてきます。
これらを病気として捉えた時に、病気の側からでは亜鉛の不足にたどり着きにくいのです。亜鉛の不足を前提に病気を見つめるのと、多種雑多な病気の側面から亜鉛不足を指摘するのでは、見え方が全く異なるからです。
- 亜鉛は貯蔵されない
鉄は貯蔵鉄、カルシウムでは骨が貯蔵庫として機能しています。
それらを測定する事も、健診などで頻繁になされています。ところが亜鉛に貯蔵庫はありませんし、不足を指摘する血液検査もなされません。
亜鉛は普通のヒトでは2〜3g、そのうち血中亜鉛量は体内亜鉛量の約1%であり、ストレスや身体活動により、絶えず数値が変動しやすく不足を指摘しにくい点があります。
この様な亜鉛の性質上、八面六臂の活躍が故に、その不足が指摘されにくい必須ミネラルと言えます。
頭痛がすれば痛み止めに頼る事があります。
アスピリンと言う痛み止めがありますが、痛いと言う症状に対して、あるいは熱が出ていると言う症状に対して用いられます。アスピリンと言う単一の成分が対応できる症状には限りがあるのは、その作用が及ぼす範囲が狭いからで、このように
人間が人工的に作った単一の成分は、副作用と言う負の側面を併せてもそれほど多くのの作用は持ち合わせていません。
亜鉛については、おそらくは生命の誕生とそれほど前後しない時代か、それよりかなり前から存在しており、生命活動に必要な微量元素として、あらゆる生命活動のトリガーを引いてきた物質であるはずです。
そのため、進化の最先端?にいるヒトの体内でも、亜鉛は多くの生命活動や現象に関与するキーとなる物質に成りえたのではないでしょうか?
鉄やカルシウムも、あまねく作用を及ぼすミネラルですが、亜鉛は、その守備範囲が他より広い事が特徴的です。
単一の成分でここまで広い作用を持った物質を聞いたことがありません。
その特徴が故に、かえってその存在が霞んでしまうと言うジレンマと、有毒物質である鉛(なまり)を連想させる残念なネーミングのせいか、日の目を見る事がありません。鉄やカルシウムに比べれば、明らかに2軍です(笑)
今回、亜鉛を取り上げたのは、亜鉛の作用部位でもある抗加齢や免疫にかかわる生薬の成分中に、亜鉛が多く見いだされる事に気が付いたからです。
多成分系薬剤である生薬は、亜鉛一つの作用を以てその効用を発揮しているとは思えませんが、その作用の中心には、亜鉛の少なからぬ存在感を感じます。
亜鉛は海の幸に多く含まれます。
牡蠣、カニ、貝類、タコなどは特に豊富で、くしくも栄養調査において消費量の減少が指摘されている
魚介類の食品群に豊富だということです。
世の中、キャスティングボートを握るのはリーダーではなく、八面六臂の腹心の部下だったりします。アルファベット、カナの最後の一文字を組み合わせた元素記号Zn(亜鉛)。
私たち現代人の健康維持、病気予防のための、最後の懐刀となれるでしょうか?