きつね色に焼いたトーストにバターを塗って一口、付合せには深煎りしたブッラクのコーヒー。
サクッとした歯ごたえの後に口の中に甘く広がるバターの風味が、酸味と苦みの効いたコーヒーで引き締まる。この弛緩と緊張の繰り返しは、これから始まる一日の喧騒を忘れさせてくれる至福の時間かもしれない。
メイラード反応
糖とタンパク質を加熱したときなどに見られる、
褐色物質(メラノイジン)を生み出す反応のこと。食品の加工や貯蔵の際に生じる反応で、製品の着色、香気成分の生成などに非常に重要とされる。メイラード反応は加熱によって短時間で進行するが
常温でも進行する。ただしその場合には長時間を要する。
食品の風味を増したり、食欲を増す褐色の焼き色を付けたり、焦げた芳しい香り付けをするために、私たちは頻繁に加熱調理をします。
焼き目のついた肉、あめ色玉ねぎ、ローストされたコーヒー豆、パンやご飯のおこげ、黒ビール、チョコレート、味噌、醤油、、
世の中の美味しいと言われるものの多くが、褐色を呈しています。これは決して偶然ではありません。メイラード反応によって、タンパク質と糖が結合する事によって生成する褐色物質に由来しています。
メイラード反応、別名:糖化反応と呼ばれるこれらの化学反応は、日常的にあちらこちらで見られます。何故なら、タンパク質と糖は、食品に限らずどこにでもある組み合わせだからです。もちろん、それは私たち人間の体の中でも常に繰り返し起きている反応でもあるのです。
世の中では、糖化よりも酸化のほうが良く知られた現象です。鉄クギが錆びたり、物が燃焼するときに起こる反応です。ヒトの体の中でも常に酸化反応は起きており、体を動かす際のエネルギー源になっています。一方で
呼気中の酸素の2〜3%は、非常に酸化力の強い活性酸素に変わり、体をさびさせていくことが解っています。ですから、健康のためにビタミンやミネラルと言った抗酸化作用の高い食事の積極的な摂取が勧められているのです。
一方の糖化と言う言葉は、酸化ほどは有名ではありません。ですが現在、日本人の糖化は確実に増えています。酸化は錆びると言われますが、
糖化とは焦げることです。日本人は焦げる傾向を強めているのは事実です。
5年毎に発表される厚労省の国民健康栄養調査は、20歳以上の男女において、体の焦げている国民は、
平成9年が1370万人だったのに対して、
平成24年では2050万人にまで増加していると伝えています。今や国民の6人に1人が焦げているのです。
年齢別では、20代から30代は男女とも1%→3%程度と微増に抑えられていますが、40代では10%前後まで増え、その後1歳年を取るごとにおよそ1%ずつ焦げた人の割合は増えていきます。最終的には70才以上の世代では、男女とも約40%まで増加している事が判明しています。
この数値は
ヘモグロビンA1c(HbA1c:ヘモグロビンエーワンシー)という数値をもとに算出されています。焦げている人とは、具体的にはHbA1cが6.0以上(NGSP)の人口の総数を示しています。健康診断の時などに目にするこの数値は、体の糖化度を示す値で、血液中のヘモグロビンと言うタンパク質とブドウ糖が結合(糖化)した度合いを示しています。
この数値が6.5を超えると糖尿病が強く疑われると言われ、20歳以上の男女において、男性は12%、女性は13%の人が該当します。HbA1cは、直近2〜3か月の血糖値の平均を反映していると言われています。糖化の行き着く先は糖尿病です。
現在は予備軍を含めて2000万人を超えております(平成24年)。
糖化はなぜ危険
糖化は糖とタンパク質があれば体中のどこにでも、そして誰にでも起きている反応です。しかし重要なのはその程度です。体の糖化は、血液中のヘモグロビンにだけ特異的に起こるわけではありません。血液の過度の糖化、つまり糖尿病は、全身の神経や血管を破壊していく事から、致命的な全身病に発展しやすいので有名だというだけです。
皮膚や骨、血管壁には
コラーゲンと言うタンパク質があります。ここが過度の糖化を受ければ、骨や血管はもろくなり、皮膚は衰えます。脳もタンパク質でできています。糖化はアルツハイマー型認知症との関連が示唆されています。
過度の糖化は、糖尿病だけでなく、生活の質に大きくかかわる様々な症状に広く関連してきます。それを老化と呼ぶ場合もあるかもしれません。しかし、加齢に伴う様々な体の変化を個別に分解すると、
糖化は老化を加速させる以外の何物でもありません。
糖化を防げ
過度の糖化を防ぐためには、食後の急激な血糖値の上昇を防ぐことが大切です。ドカ食い、早食いが昔から戒められているのは食後の高血糖を防ぐ点でも意義があります。
次に食べる順番です。一般には野菜や汁物からの食べ始める事で、ご飯やパンと言った糖質の吸収が緩やかになり、急激な血糖値の上昇を有意に防げる事が解っています。
野菜→煮物→肉・魚→ご飯の順番が糖化リスクを低減してくれます。
栄養素と言う切り口で見ても、ご飯などの炭水化物は、食後30分で血糖値を最大化させるのに対して、タンパク質や脂質はそれよりもかなり遅れて血糖値に作用してきます。ですから炭水化物は食事の後半にとるのが良いでしょう。食物繊維はほとんど血糖には関与せず、食後の血糖値の急激な上昇を緩和してくれますので、食事の前半に積極的に摂りたいところです。
また、定期的なHbA1cの測定も、自身の糖化バロメーターを知る上で重要です。運動や食事を気を付けながら、現状を知る事で抗糖化のモチベーション維持に役立つでしょう。
糖化の食指は、老若男女を問わず幅広い世代に及んでいます。糖化の来源は飲食物から得る過剰な糖です。私たちの食環境は、知らず知らずの内に糖にまみれているのかもしれません。今後、世界の食糧事情は、人口のさらなる増大とともにカロリー当たりの単価の安い炭水化物(糖質)に比重が傾いてくるとも言われています。これは個人ではどうする事も出来ないかもしれません。しかし、食卓に何が並ぶかは、私たちが主体的に決めることが出来ます。
朝からのんびりコーヒーをすすっている場合ではないかもしれません(笑)抗酸化と抗糖化、健康を維持していくうえで大切なキーワードですね。