巡る流体
人間などの多細胞生物は、無数の細胞の規則的な集積ですが、その約6割は体液と呼ばれる液体で占められています。血液を含めた体液は、生命を維持するために、細胞へ栄養素や酸素を運ぶとともに、老廃物や二酸化炭素を運び去るなどの働きを媒介しています。
人間は、外界との境目となる皮膚や、体を形作る骨格などからなる構造物という見方も出来ますが、その内部や外界との辺縁で起こる生命活動の多くは、体液や空気と言った流体を介して取り行われています。これは何も人間に限ったことではなく、ミクロの微生物や大型の哺乳類、草花から樹木に至るまで、あるいは対流する外核と呼ばれる構造を持つ地球ですら、その内部は流体のように躍動するダイナミックな活動体であると言えます。
人間の内部は流体だ、などと言ってもあまりピンと来ないのですが、その機能面においては流体の様なダイナミズムを有しているのは事実のようです。
事実、人間の生命活動は不断の血流によってまかなわれています。
物質的なものだけでなく、機能的なふるまいまで血流が関与しています。唾液や胃液といった消化液や、涙や尿と言った物質も血液などの体液が変化した物であり、歩いたり心臓が動いたりすることであっても、血流がもたらす物質が、機能に転換された結果だという事が解っています。
日常的な問題として病気があります。
急性の病気や怪我、例えば風邪だとかウイルス感染症、捻挫や火傷などは、外からの強い刺激が短時間のうちに襲ったために患います。それらから回復しようとするときに起こる免疫や、損傷した個所を修復しようとする一連の反応は、物質的な説明が可能であり、それらは血流によってまかなわれています。
また、慢性病の多くは炎症であり、血管のそばで起きているものです。恒常性の破たん(治ろうとする自然な働きが破たんしてしまう事)や器質的異常など、血流改善だけではどうにもならない病気もありますが、日常的に悩まされる慢性病の多くは、血流悪化の結果引き起こされた炎症によってもたらされるものが多いです。
体液や血液とは便宜的な分類で、その本質は流体であると言う定義を超えるものではありません。お互いは交通し合うものであり、ある時は体液として、またある時は血液として存在しており、来源を同じくするものです。血管の中を流れている時は血液と呼び、それ以外の場所に存在している時は体液と呼んでいるだけです。体から離れたものは、機能を持たないただの物と言う事になります。
体液を滞らせる主な要因
- @冷え
血液あるいは体液が運ぶ物質が、円滑な機能として役立つためには動的な円滑さが必要となります。その根源として熱を必要としているため、体を暖かく保持する事は、血流を改善する方向に作用します。
- A不足
血液や体液の量的不足は、その分布に偏在をきたし、局所における血流を悪化させる場合があります。水分補給の不足や発汗、下痢、発熱などによる脱水は血流を悪化させてしまいます。貧血や出血、加齢に伴う体の渇きも同様に血流を悪化させます。栄養失調や不適切なカロリー制限も量的不足であり、血流の悪化を招きます。
- B質的悪化
流体としての性質を持つ体液は、その粘稠度(粘り気の程度)が高くなれば流れにくくなります。血液検査で正常値を超す検査値が出ている場合には、正常な血液よりもドロドロした状態と考えられます。暴飲暴食や偏食も、体液の質的悪化につながるため、血流を停滞させます。
- C通り道
ストレスフルな生活は、体液の質的悪化を招くだけでなく、血管を収縮させる方向に作用するため血流量の低下を生じます。血管内腔が狭まる動静脈瘤や動脈硬化症、また微小循環(毛細血管の血流)の悪化なども同様に血流の悪化を招きます。
- D排泄の異常
血流とは、円環を巡る絶えない流れではありますが、不要な物や老廃物は排泄されなければなりません。大小便、汗、皮膚、呼吸などは、それらの重要な排泄経路であり、そこが滞れば不要物を体内に溜め込むことになり、結果として血流悪化を招きます。何をどのように食べるかよりも、どう排泄するかの方がある意味重要と言えます。
- E機能の低下
血液を送るポンプである心肺機能の低下は、血液を推動する妨げとなります。第2の心臓と言われる下腿の筋力低下や運動不足などで、心肺機能の低下が補えなくなった場合は血流悪化を招きます。
血流の悪化は時に病気に発展するだけでなく、その治癒の発現を遅らせてしまう結果に至ります。血液を含めた体液が滞りなく循環する事が、生命活動の基本となる事から、なるべく良い血流を保つことが大切です。
日々変化する人生のあらゆる局面において、常に良い状態を目指すのは歩いて月を目指すよなもので、絵に描いた餅です。気持ちにゆとりが有る時、あるいは環境が整った時にこそ意識すべき点です。また、これは健康の維持や病気の予防の観点から対策であるため、健康な方ほど目に見える変化を感じにくいものかもしれません。そのためにモチベーションが上がらず、途中で忘れてしまう事もあるでしょう。それでも生命活動の多くは血流を介して起きていると言う事実は、心のどこかに持ち続けて欲しいものです。
東洋医学の発想で血流を整える
東洋医学では、流体(血液や体液など)の量的な不足よりも、そのめぐりの善し悪しを重視します。物質が機能に役立つためには、それらが静止することなく全身を巡ることが第一に大切だからです。そしてその動的根源として「熱」が必要です。
先に上げた血流を悪化させる要因を、個別に対処していく事は大切です。血液の質を改善したり、量的不足を補う事も重要です。心肺機能の低下を足腰を鍛えることで補ったり、排泄を整える事も基本です。しかし、それらはあくまで2次的対処であり、一番大切な事は熱を補う事であり、冷えを遠ざける事です。
何らかの病気や失調を治療すると言う事は、究極的には血液や体液の巡りの改善することです。他の多くの動物と違って汗をかくことが出来る我々人間は、暑さから身を守る術を持っていますが、冷えに対してはあまりに無防備です。
先に上げた血流悪化させてしまう他の要因への対策と併せて、ぜひ体を温めて冷えから遠ざかる生活を心がけたいものですね。